包括的性教育とは?海外との比較や日本の現状について紹介

近年、メディアで取り上げられる機会も増え、耳にする機会が増えた「包括的性教育」。
しかし、「具体的にどのような教育を指すのか?」「なぜ今、包括的性教育が重要だと言われているのか?」と疑問に感じている方もいるのではないでしょうか。
本記事では、包括的性教育の定義や、ユネスコが提唱する8つの主要コンセプト、そして海外の先進事例を交えながら、日本の現状と課題について詳しく解説します。
包括的性教育とは
「包括的性教育」とは、UNESCO(国際連合教育科学文化機関)が中心となり、2009年に発表した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」に沿った、世界標準の性教育のことです。

これは、1980年代のHIV/エイズの世界的な流行などで、90年代に「性の権利は人権である」という国際的な意識が高まったことを背景に生まれました。
「包括的性教育」は、これまでの性や生殖の知識だけでなく、「自分と相手を大切にする方法」を学ぶ人権教育であると言われています。
出典:ユネスコ International technical guidance on sexuality education
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000374167
8つのコンセプト
UNESCOの「包括的性教育」では、子どもたちが生涯にわたって健康で幸福な人生を自分で築いていく「生きる力」そのものを育むために、8つのコンセプトを軸に多様性やセクシュアリティを学んでいきます。
1.関係性
身近な家族や、友人、パートナーなどの関係を通して自他を尊重することを身につけます
2.価値観・人権・文化・セクシャリティ
自分の価値観を知り、その価値観を通して人権や文化、セクシュアリティの知識を学びます。
3.ジェンダーの理解
生物学的な性とジェンダーの違いを学び、ステレオタイプ(固定概念)やジェンダー平等について考える機会を作ります
4.暴力と安全確保
いじめや暴力とは何かを知り、その延長線上にあるデートDVや望まぬ妊娠、性暴力の予防方法を学びます。
5.健康と幸福のためのスキル
心身の健康のためジェンダー規範などを学び、性的同意などの意思決定の方法やメディアリテラシーなどを学びます。
6.人間のからだと発達
年齢に応じた体の変化や、ボディポジティブ(自分の体をありのままに愛そう」という欧米発祥のムーブメント)などのボディイメージを学びます。
7.セクシュアリティと性的行動
セクシュアリティとは何かを理解し、性的行動を楽しむということ、注意点を学びます。
8.性と生殖の関する健康
妊娠や避妊、HIVなどの性感染症について学びます。
海外における包括的性教育の事例
スウェーデン
スウェーデンは、包括的性教育の先進国として知られています。幼少期からの包括的性教育で性的同意の重要性を学ぶ結果、何が性暴力にあたるかという認識が社会に広く浸透しました。
取り組みの事例としては、RFSU(スウェーデン性教育協会)というスウェーデンで影響力のあるNGOが、国と連携し性教育を行っています。
質の高い教材を開発して学校に提供したり、教員向けの研修を行ったりすることで国の性教育を専門的な立場からリードしています。

出典:RFSU Riksförbundet för sexuell upplysning
そのほかにもユースクリニックという若者(主に25歳以下)であれば無料・予約不要・匿名で、避妊の相談、コンドームの入手、性感染症の検査、カウンセリングなど、幅広いサービスを受けられる施設があります。
2022年の人口10万人あたりの強姦件数は世界3位と、各国と比べて多い※1ですが、これは犯罪の多さではなく、国民の意識が高く、被害者が被害を相談するなど、声を上げやすい社会を実現していることが明らかになっています。
出展:世界人口レビュー 2022年 国別レイプ統計
https://worldpopulationreview.com/country-rankings/rape-statistics-by-country

オランダ
オランダも、包括的性教育の先進国として知られています。
学校教育だけでなく、家庭や社会全体で性の話題がオープンに議論される文化があり、欧州の中でも特に若年層の妊娠率や性感染症の発生率が低い国の一つです。

オランダでは、幼少期から性や愛をポジティブに学ぶ文化を育みます。専門機関Rutgersが開発した「Lang leve de Liefde(愛、万歳!)」などの教材を使い、避妊の知識だけでなく、パートナーと対話する実践的なコミュニケーションスキルまで学びます。

これにより、10代の出生率は1,000人あたり1.8人(2022年)と世界で最も低い水準にあり、若者を力づける教育の成果が明確な数字で示されています。
出展:World bank group 10代の出生率
https://data.worldbank.org/indicator/SP.ADO.TFRT
日本における包括的性教育の現状
海外との比較
現在の日本の性教育は、海外と比べ学び始めるタイミングが遅く、内容が限定的であると言えます。
比較項目 | 包括的性教育(国際標準のモデル) | 日本のセクシュアリティ教育 (一般的傾向) |
---|---|---|
考え方の基本 | 人権・健康・幸福が土台。 性のポジティブな側面も扱う。 | 避妊・HPVワクチンなどの病気の予防の紹介が中心。 |
開始年齢 | 5歳から段階的に開始。 (安全教育や人間関係から) | 小学校高学年~中学生から本格化。(第二次性徴や月経などから) |
主な内容 | 生物学的な知識に加え、人権、ジェンダーの多様性、性的同意、人間関係のスキルなど幅広いテーマを扱う。 | 生物学的な知識(生殖、第二次性徴)が中心。人権や多様性に関する内容は限定的。 |
性の多様性(LGBTQ+)の扱い | 必須の学習項目として、多様な性のあり方を尊重することを学ぶ。 | 教科書での記述は増えたが、学校や教員による扱いの差が大きいのが現状。 |
日本の歯止め規定
日本の教育は、文部科学省が定める「学習指導要領」に基づいていますが、長年、性教育に関しては「発達段階に応じて、行き過ぎた指導は避ける」という趣旨の、通称「歯止め規定」が存在しました。
この規定により、学習指導要領に最低限示された範囲(生殖や避妊など)を超える指導は行われませんでした。特に、小学校や中学校で「性交」を扱うことは抑制されてきました。
一方で現在文部科学省では、子供たちが性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないことを目的とした「生命(いのち)の安全教育」というものを推進しています。

この前向きな流れがさらに加速し、日本でさらに包括的性教育が浸透することを願っています。
出典:文部科学省生命(いのち)の安全教育について
https://www.mext.go.jp/a_menu/danjo/anzen/index2.html
包括的性教育の年齢別の教育内容
包括的性教育は、最初にお伝えした8つのキーコンセプトと、子どもの発達段階に合わせた4つの年齢層を軸に構成されています。8つのキーコンセプトごとに各年齢層(5〜8歳、9〜12歳、12〜15歳、15〜18歳以上)で達成すべき具体的な学習目標が設定されており、その目標に沿って段階的に学んでいきます。
キーコンセプト1:関係性
家族や友達などの人間関係には多様な形があることを学びます。
思春期による人間関係の変化や恋愛感情の芽生えについて学びます。
恋愛関係の築き方、デートDVなど、健全な関係とそうでない関係の見分け方を学びます。
長期的な関係、結婚、親になることなど、人生の節目における関係性の築き方や対立の解決方法を学びます。
キーコンセプト2:価値観・人権・文化・セクシュアリティ
価値観とは何か学び、自分と人の違いを認め、相手を思いやることの大切さを知ります。
自分の価値観が行動にどう影響するかについて考え、メディアリテラシーなどについても学びます。
自分や他者の価値観、そして社会や文化が性に与える影響を理解し、それを人権として尊重することを学びます。
セクシュアリティに関する権利が人権の一部であることを理解し、法律や社会との関わりの中で自他を尊重し行動する方法を学びます。
SISTERSの事例
まだまだ遅れていると言われがちな包括的性教育ですが、SISTERSでは包括的性教育の一環として下記授業を行っております。
- 関係性:デートDV
- 価値観・人権・文化・セクシャリティ:ジェンダー教育
- ジェンダーの理解:ジェンダー教育
- 暴力と安全確保:性暴力の予防授業・デートDV
- 健康と幸福のためのスキル:今後公開
- 人間のからだと発達:今後公開
- セクシュアリティと性的行動:性暴力の予防授業・性教育の授業
- 性と生殖の関する健康:今後公開


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